コラム
従業員による横領があった場合
2023年8月8日
こんにちは、愛知県安城市にある税理士事務所、太田和之税理士事務所の太田です。
「先生、今から事業を始めようと思うのですが注意する事は何かありますか?」
税理士という職業柄このような質問を受ける事はよくあります。
注意すべきこと、数えきれないほどあります。
資金繰り、銀行との付き合い、人繰り、労働時間、税金、老後資金、、、、、、
相談相手により話す内容は変えるのですが、特に現金商売をされる飲食店・小売業の方には必ず言う事があります。
「現金は自分か自分の家族だけで管理しましょう」
これは非常に重要です。
何故なら横領は想像以上に頻繁に起こるからです。
「大丈夫だよ、本当に信頼している奴に任せてるから」
そう言う方も多いですが、そんなのは当たり前です。
皆さん信頼している人に現金を預けています。そして横領されているのです。
2-3割くらいの事業主さんは横領された経験があるのではないでしょうか。
発覚していないケースも含まればもっと多いと思います。
一流大学出身で一流の給料をもらって、横領なんて出来ないようにルールでガチガチに縛っている上場企業でさえ横領はよくあります(外に情報が出ない事が殆どだとは思いますが)
個人事業主や小規模法人で起こらないわけはないのです。
なので私は「現金は可能な限りご自身で管理してください」と口を酸っぱくして言っているのですが、そうはいっても業務上難しい場合もあります。
そして残念ながら横領の被害にあってしまうことも。
横領の被害にあって気落ちしている社長に私は無慈悲な言葉を掛けなければなりません
「社長、追加で税金払ってください」
横領があった場合の税務
前置きが長くなりましたが、従業員による横領が発覚した場合は会社側は追加で税金を納めなくてはいけないケースが多くあります。
「横領されて損してるんだから、むしろ税金は返ってこないとおかしい!」
その気持ち非常によく分かります。
ですが税務上は下記のような扱いになるのです
横領されると利益が増加する
一口に横領と言っても、お金の抜き方は何パターンかあります。
①お客さんから預かった売上代金を、会社に売上報告せずにポケットに入れた場合
②架空の経費を支払ったように見せて会社からお金をだまし取る場合
がよくあるパターンですが
①の場合は会社に「売上の計上漏れ」が生じています。
正しく経理処理すれば売上が増加し、利益が増加します。
②の場合は会社が「経費の過大計上」をしている状態です。
架空の経費は損金処理できませんので、経費の否認が必要です。
経費が減りますので、当然利益が増加します。
横領損失の計上
「でも、横領されたという『損失』があるから、その分利益が減少するのでは?」
鋭い指摘ですが、通常利益が減少する事はありません。
たしかに横領されたという損失はあります。
ただ、同時に横領した従業員から横領に要る損失を賠償してもらう権利を得ることになります。
この2つは同額ですので、相殺され利益への影響は無くなります。
横領された金額は「法律上は従業員から返して貰える」はずのお金なので、まだ損失とは言い難いのです。
回収可能性の検討
とはいえ横領されたお金が返ってくるとは限りません。
横領者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、法人税基本通達9-6-2により、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができます。
(詳細は貸倒損失~事実上の貸倒れ~を参考にしてください)
ここが重要で、上記の要件を満たさずに「どうせ返ってこないだろうから諦めよう」は避けてください。
要件を満たさず債務免除してしまうと、実質的な従業員への賞与という扱いになります。
賞与であれば源泉所得税が発生しますので、会社はこの金額を納税しなくてはいけないのです。
そしてこの源泉所得税も従業員から回収できず会社が負担すると、それもまた賞与扱いになり、そこにまた源泉税が・・・・・
(横領が役員によるものの場合は、賞与が損金になりませんのでもっと悲惨なことになります)
さらに源泉所得税の納付遅れによる不納付加算税や延滞税もあります。
泥棒に追い銭したら、国にも税金を取られた
という事態になるのです。
このような事態を避けるためにも、現金はなるべくご自身か家族のみが触れるようにする。
それが難しければせめて毎日現金残高を合わせる、といった対策が必要です。
太田和之税理士事務所は様々な税務相談に対応しております。
安城市以外でも刈谷市・碧南市・大府市・豊田市・豊橋市等の愛知県全域に対応しておりますので、ご興味がある方は是非一度ご連絡ください。