太田和之税理士事務所

コラム

株式譲渡・配当の税務④~損益通算と繰越控除~

2021年10月21日

前回(住民税申告不要制度)につづいて今回は特定口座内の損益通算と繰越控除について説明します。

 

申告分離課税のデメリット

特定口座内の株式譲渡所得・配当所得については

 

①申告しない

②申告して分離課税を選択

③申告して(配当だけ)総合課税を選択

 

のいずれかを選択することができました。

「①申告しない」では証券口座ごとに所得税15%住民税5%の源泉徴収がされ、課税が完了しています。(復興支援税除く)

だとすると「②申告して分離課税」との違いは何でしょうか。確かに一見税率は同じです。

 

まず大きな相違点として、扶養の判定があります。

例えばある専業主婦Aさんが株で1000万円儲かったとしましょう。

 

「①申告しない」では証券会社が勝手に利益の20%にあたる200万円源泉徴収します。そこで課税関係は終了し、他には影響を与えません。

「②申告して分離課税」ではAさんが「1000万円儲かった!」と税務署に申告して自分で利益の20%である200万円を納めることになります。

 

何が違うでしょうか。確かに納税額は変わりません。

しかし、「②申告して分離課税」ではAさんは専業主婦ではなく年収は1000万円のトレーダーとなるのです。(あくまでイメージです)

年収1000万円の敏腕トレーダーが誰かの扶養に入っているのはおかしいですよね。なのでAさんは旦那さんの扶養から外れて旦那さんの所得税・住民税が上がります。

社会保険の扶養から外れて自分で国民年金・国民健康保険を払わないといけなくなるかもしれません(組合によって判断が異なります。)

 

「②申告して分離課税」は税金が戻るわけでもないのに大損する、というケースがかなりありますので選択は慎重にしなければなりません。

 

 

申告分離課税のメリット

では「②申告して分離課税」を選ぶと得するケースはないのかと言えばそんなことはありません。

「②申告して分離課税」が得をするのは「赤字」となったときです。

 

株で「赤字」になったはざっと3パターン考えられます。

 

①1年間でトータルで赤字になった

②ある証券会社口座では赤字になったが、黒字になった証券会社口座もある

③株式譲渡では赤字になったが、配当は黒字になった

 

①1年間でトータルで赤字になった

 

株式譲渡所得が赤字になった場合、その申告をすればその赤字を3年間繰り越す事が出来ます。

 

例えば

1年目:300万円の損失

2年目:200万円の利益

3年目:200万円の利益

 

の場合、申告をしなければ納税額は

1年目:0円(赤字)

2年目:200万円×20%=40万円

3年目:200万円×20%=40万円

で合計80万円の納税が発生しますが、3年とも申告をしていれば

 

1年目:0円(300万円の赤字)

2年目:(200万円-200万円)×20%=0円(1年目の赤字300万円のうち200万円を充当)

3年目:(200万円-100万円)×20%=20万円(2年目で充当しきれなかった赤字100万円を充当)

となり、納税は20万円になります。

 

株でトータルで赤字だった場合は申告をしておくと”将来”の節税になる事があります。

 

②ある証券会社口座では赤字になったが、黒字になった証券会社口座もある

複数の口座を持っている場合

A証券:100万円の損失

B銀行:200万円の利益

 

の場合、何もしなければB銀行で40万円(200万円×20%)の源泉徴収が引かれて課税が完了します。

しかし、両方を申告しておけばA証券とB銀行の損失と利益を相殺する事ができます。

{200万円(B銀行利益)-100万円(A証券損失)}×20%=20万円

ですので、納税は20万円だけになります。

 

 

③株式譲渡では赤字になったが、配当は黒字になった

配当も含めて分離課税で申告した場合、株式譲渡での損失は配当収入と相殺することが出来ます。

同じ口座内であれば証券会社が自動で相殺して還付してくれますが、別の講座の場合は②と同じような状況になります。

 

配当所得は総合課税して配当控除をとるか、分離課税して損益通算するか非常に悩ましいところです。

今年だけの有利不利ならまだいいのですが、翌年以降に繰越される株式譲渡損失額にも影響があるので、どこまでいっても答えのない問いになったりします。

 

 

譲渡損失を申告していなかった場合

 

よく相談があるのが「今年株で大儲けした。去年一昨年は大赤字だったが、面倒で申告していなかった。今から過去の申告をして、過去の損失と今年の利益を相殺できないか」というものです。

これが可能かどうかは場合によって異なります。

 

ケース①過去の確定申告書を提出していない場合

譲渡損失が発生した年度以後一度も確定申告書を提出していない場合は相殺可能です。

損失発生年度以後の確定申告を期限後申告する、という形式になります。

要するに「確定申告が遅れちゃっただけ」と捉えられるからです。

 

ケース②過去の確定申告書を提出しているが、譲渡損失の申告はしていない場合

この場合は相殺することは出来ません。

特定口座の場合は申告するかしないかを選択することが出来、このケースでは「申告しない事を選択した」とみなされるからです。

一度決めた申告方法は過去の遡って選択しなおすことはできません。

 

 

 

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・はじめに

・配当控除
・住民税申告不要制度

・損益通算と繰越控除
・申告期限後の譲渡損失の繰越控除

 

 

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